いつも高校に寝袋を持ち歩いている男がいた。そいつは教室でも学校でも体育館履きをはいたまま歩いている。
雨が降ればJR東海マークのついた傘をさしている。つまり傘はJRに借りたまま、自分のものとして平然としているのだ。
高校1年の時にそいつと同級生になった。名前は宇田川と言って昼休みは学校で売られているパンをかじっていた。
寝袋を持ち歩く高校生との出会い
私は母親が作った弁当を食べていた。宇田川は羨ましそうに私が弁当を食べている姿を見ている。
その物欲しそうな瞳で見られた日には、ついついおかずをわけてしまいたくなる。
私は宇田川に話しかけた。
「いつも食べているのパン一個だけだよね?」
「うん、パン一個では腹が減ってしかたがないよ。おいしそうな弁当だな」
「そう? じゃあ少しおかずあげるよ」
「えっ! いいの?」
「いいよ」
私は弁当のおかずを宇田川に少しわけてあげた。宇田川はおかずを味わうように食べた。
それが縁で私と宇田川はいつしか仲良くなり、高校が終わると宇田川と自転車に乗って出かけたりした。
宇田川の自転車は入学祝いに親から買ってもらったもので、折り畳み式の自転車だった。
体育館履きのまま自転車のペダルをこぐ宇田川の姿を見て、おかしな奴と友達になってしまったなぁと改めて感じたものだ。
自動販売機の前で宇田川は自転車をとめ、自動販売機の下に傘をつっこみ何かさがしはじめた。
「宇田川、何しているの?」
「小銭が落ちていないか調べているんだよ」
「そんなことに時間を費やすぐらいならバイトした方が効率いいでしょ?」
「そうだけど、こないだ500円も見つけたよ」
「そうかもしれないけどさぁ」
そんな会話のやり取りを交わしたこともあった。
家に帰らず寝袋で野宿する家出状態の高校生
宇田川は家に帰らずに外で寝袋にくるまり眠っているらしい。
寝袋で野宿している時点でおかしいのだが、寝ているときに折り畳んだ自転車が盗まれないように、自転車と手首を手錠で結びつけて、眠っているのには驚愕してしまった。
夜に高校の土俵近くの隅で野宿をしていた時など、夜中に警備員に叩き起こされ「ここで何をしてんだ」と尋問を受けたこともあるみたいだ。
切符を買わずに新幹線に乗り込み、遠くの街まで行ったこともあるらしい。
駅員が乗車券を調べにくるたびにトイレに行く振りをして何とか乗りきったみたいだ。
宇田川の話では、遠くの田舎の駅は誰もいないから切符を持たなくても降りることができると語っている。
しかし、そんなことばかりしていたら、いずれ駅員に捕まるんじゃないかと私は思っていた。
キセル乗車がバレて捕まった高校生の異臭騒ぎ
予感は的中し、宇田川は駅員に捕まり、お金を払わされたと嘆いていた。全く持って自業自得である。そんなある日、事件は当然のようにして起こった。
学校での授業中に女子が何か異臭がすると騒ぎだしたのだ。原因は宇田川の足から漂う強烈な臭いであり、何日も風呂に入っていなかったせいだった。
人間は何日も風呂に入らないでいると、吐き気がするような臭いがする。宇田川の方を見ると異臭の原因は自分だと分かっているみたいで、少しうつむいている感じだった。
私はその時、疑問に思った。何故、宇田川は家に帰らないで野宿をしているのだろうか。
家庭で何かしら問題があるのだろうか。
私は教室での異臭騒ぎがあった日の放課後、家に帰らない理由を宇田川に聞いてみることにした。
同級生の高校生の家出をしている理由
「なぁ宇田川、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「何?」
「今日教室で異臭騒ぎあっただろ? 原因は宇田川だよな?」
「あぁ、ずっと風呂に入ってなかったからな」
「女子がすげー騒いでいたぞ」
「いいよ、騒ぎたい奴は騒げばいいさ」
「なぁ、何で家に帰らないで野宿ばかりしてんだよ?」
「野宿するのが好きなんだよ」
「嘘つけ! 本当のこと言えよ」
「分かったよ。親のことが嫌いだから家に帰りたくない……」
「そうか……」
ねほりはほり聞くのもなんだしと思い、これ以上は聞かなかった。
ただ、予想どおり家庭に問題があるということ。両親が嫌いで家に帰らず、野宿をしているということが分かった。
「学校ではなんだし、これから私の家に遊びにくるか?」
「石川いいのか? でも俺、臭うからな……」
「いいよ、気にしなくて。今日は鼻がつまっていて、臭い分からないし大丈夫だよ」
「本当か? じゃあ行く」
「よし、行こう」
私は高校から15分くらいの所に住んでいた。だから、すぐ目と鼻の先にある。
私も宇田川も自転車通学だったので、あっという間に家にたどりつきドアを開けた。
いきなり私の母親に言った一言にびっくり
宇田川は玄関先に入るやいなや、玄関先に近づいてくる私の母親に話しかけた。
「おばさん、風呂場で足洗わせてください?」
「はっ! 足?」
「はい、ちょっと汚いんで洗わせてください」
「どうぞ」
母親はびっくりした顔で宇田川を見ていたが、お構いなしに宇田川は風呂場に向かい足を洗っていた。
私は宇田川が洗っている姿を覗いていたのだが、宇田川の足は黒ずんでいた。
たぶん相当風呂に入らなかった結果、垢が足にこびりついていたようだ。
やがて、母親は宇田川の体育館履きから異臭がするのに気づいた。
足を洗い終わった宇田川が風呂場から出た時に、母親はちょうど箸のようなもので体育館履きをつまんで外にだそうとしていた。
風呂場と玄関が近かったせいか宇田川と母親は鉢合わせになってしまう。
宇田川は慌てて母親に「臭くてすいません」と笑いながら謝り、母親も笑いながら「気にしなくていいのよ」と言っている。
2人の姿は何だか滑稽で私は大きな声で笑った。
今まで私の家に遊びにきて靴下を脱ぐ人はいたけど「足を洗わせてください」と言う奴はいなかった。
前代未聞な出来事に母親はびっくりしていた。 宇田川が帰った後、母親は私に宇田川のことを聞いてきた。
「さっきの子、何で体育館履きで外歩いているの?」
「知らないよ、靴に履きかえるのが面倒だったんじゃないの」
「嘘よ、体育館履きからすごい臭いしたわよ」
「いい臭いだったでしょ?」
「臭かったわよ、だから外に思わずだしてしまったわよ」
「たしかに! まぁ宇田川のことはほっといてよ」
「宇田川君ってちゃんと家に帰っているの?」
「さぁ……」
「正直に話しなさい」
「嫌だね」
私はのらりくらりと母親の質問をかわした。
正直に話したところで何も変わらないだろうし、母親が興味本位で聞いてくる感じがした。
だから、宇田川がどんな子なのかは話さなかった。
野宿高校生はアイドルに恋をする
人間というのは年頃になれば恋をする生き物である。異臭騒ぎを起こした宇田川も人並みに恋をする。
どうやら宇田川は恋をしているらしい。私の部屋で話している時に宇田川は自分の恋を語りだした。
それは手には届かない高嶺の花ともいうべき存在の女性の話だった。
当時、佐野量子さんというアイドルがいた。現在、競馬騎手の武豊夫人である。
宇田川は彼女の大ファンであり彼女に恋をしていたのだ。
宇田川はよく私の前で「こんにちは。佐野量子です」と全く似ていないモノマネをしていた。
明らかに宇田川は彼女の虜になっており彼女の話をしている時、とても幸せそうな顔をしていた。
宇田川は私の前で冗談なのか本気なのか分からないが、「いつか佐野量子さんと結婚します」 と言っていた。
そのたんびに私は「たのむから現実を見つめてくれ!」と宇田川に言っていた。
そんな私も人のことをとやかく言える人間ではない。私は約1年後に恋をすることになるのだが、今考えると異常な行動をしていたからだ。
当時、バイトしたお金でビデオカメラを買ったのだが、恋をしている心境をビデオカメラに向かって、たったひとりで語っていたのである。
しかも、家に友達を連れてきては、私が恋愛について友達に相談している模様をビデオカメラに撮影していた。
友達はとても嫌な顔しながら「何で撮影しているんだよ!」と文句を言っていた。
私はあまりにも宇田川が佐野量子さんに熱をいれあげているようだったので少しは協力したいと思い、ある行動をした。
それは1990年3月21日・日本テレビ系列で放送された第1回、日本ファンタジーノベル大賞受賞作「雲のように風のように」で、主役の銀河役に佐野量子さんが声優をしているアニメがあるのだが、それを私は録画しておいたのだ。
宇田川を家に連れてきた時に、私はビデオ上映会と称し「雲のように風のように」を宇田川に観せた。
宇田川は声で佐野量子さんが声優をしているのが分かったらしく嬉しそうにアニメを観ていた。
エンディングで佐野量子さんが主題歌を歌っているのだが、宇田川はいっしょになって歌っていた。この日は宇田川にとって最高のプレゼントになったのかもしれない。
それにしても宇田川はあいかわらず風呂に入っていないようだった。
クラス全員、異臭がするのは宇田川からだと気づくのは時間の問題だ。
しかし、捨てる神がいれば拾う神がいる。人生とはうまくできている。
宇田川を救うことになる第2の男が登場することになるからだ。
愛読書は月間相撲の高校生登場
高校で週刊ジャンプや週刊マガジンなどを休み時間に、生徒が読んでいるのはごく当たり前の風景だが、月刊相撲を手に取り熱心に読んでいる生徒は珍しくないだろうか。
そいつは丸坊主姿で筋肉質の体格をしている。
時折、月刊相撲を読んでいる最中に大きな声で笑っている。
何を隠そう! その男こそ第2の男、山本である。 私はギャグ漫画を読んでいるわけではないのに、月刊相撲を読んで笑っている山本に興味を持った。
山本の背後に忍び込み、いったいどんなページを読んで笑っているのかを確認することにした。
忍び足で山本の背後に近づき、気づかれないように月刊相撲のページを覗く。
そこにはまわし姿の力士が土俵の中で対決している写真が載っていた。
山本の表情を覗くと仏のような笑顔で笑っている。
心の中で、「何でこいつは笑っているのだろう……」と思った。
疑心暗鬼になって山本を覗いていると、視線に気づいたのか山本は私のほうをじろりと見た。
私は慌てて視線をそらしたが、すでに遅かったみたいで山本に話しかけられてしまった。
「お前さん、相撲好きなの?」
「いや、何で月刊相撲を読んで笑っているのか気になって覗いたんだよ」
「ふーん」
「何で月刊相撲読んでいるの?」
「わいは相撲が好きだからだよ」
「そうなんだ……。てっきり力士の写真見てニタニタ笑っているから男性に興味があるのかと思ったよ」
「うぎゃ! 違うわい」
山本は大きい声で否定した。その声は腹からでているみたいで、教室中、鳴り響いた。
それが縁で山本と仲良くなった。
山本は相撲が好きみたいで迷うことなく相撲部に入部。
私は中学の時は剣道部だったのだが、高校では軟式テニス部に入部した。
軟式テニス部は部員も多く、早朝の練習などもあり大変だったのだが、ある事件が起きた。
先輩のサーブしたボールが私の顔面に直撃したのである。 軟式だからボールは柔らかいから安全だと思っていたのは大間違いだった。
高速で打たれたボールはコンクリートのように硬く、私は顔面の目のところに見事に命中してしまい、目が思いっきり腫れあがってしまったのだ。
私はこのまま軟式テニス部をしていて、また危険な目にあうのは嫌だったので、すぐに退部し帰宅部になった。
一方、山本は相撲部に入ったものの、部員はたったひとり。稽古の相手もいないため、ただひたすら土俵の横にある大木にはり手をしていた。
異臭騒ぎの原因を解決するため相撲部に入部
世の中はタイミングで回っている。宇田川は異臭騒ぎを起こし、このまま風呂に入らないでいたらまずいと考えていた。
山本はたったひとりの相撲部員で寂しい部活動をしていた。私は帰宅部になり時間に余裕ができた。
タイミングは重なりあい、パズルのピースのようにうまく組み合わされる。
相撲というのは土俵で稽古し、当然身体は汚くなる。部活が終わればシャワー室に入り体を洗って帰る。
宇田川はシャワーが浴びられるということに敏感に反応をしめし、私に話しかけた。
「石川、俺、相撲部に入ろうと思っている。部活が終わればシャワーに入れるしさ」
「相撲? 山本が入部している相撲部にか?」
「あぁ、もう山本には話したよ」
「そうなんだ、まぁ、大変だろうけどがんばれよ」
「おい、そんな他人行儀なこと言うなよ。石川は帰宅部なんだからお前も相撲部入れよ」
「嫌だよ」
「そんなこと言わずにさぁ、俺を見捨てないでくれよ」
「そんなこと言われても、私は相撲やるような体格じゃないよ」
そばには山本がいた。聞き耳をたて私と宇田川の話の一部始終を聞いていたみたいで、話を割って私に話しかけてきた。
「ならお前さん、マネージャーやりなさいよ」
「えっ! 私が!」
「こないだマネジャーになってくれる女の子に逃げられて、誰もなってくれる人がいないんだ」
「山本、前にそんなこと言っていたよね」
「うん」
山本は「相撲部のマネージャーになってもいいよ」と言ってくれた先輩のクラスに休み時間に突然現れ、大きな声で「これから相撲部のマネージャーよろしくお願いします」 と挨拶をし、先輩は顔を赤らめ、それ以来マネージャーになってくれる話は白紙になってしまったことがある。
そんなことがあり、マネージャーの白羽の矢が私に向けられてしまったみたいなのだ。
「マネージャーになるか分からないけど、一度相撲部を見学してみるよ。どんな部活動をしているのか見てみたいのもあるしね」
「お前さん、本当か?」
「あぁ、本当だ。今日にでも見学してみるよ」
まるで相撲部に引きずりこまれるように放課後、相撲部の活動を見学することになった。
だが、山本と宇田川と私だけでは何とも寂しいので、もうひとりのクラスメイトを誘うことにした。
そいつは花井という奴で、学校の授業中に余裕の表情で遅刻して現れ、余裕の表情で授業を受けている男だった。
私と宇田川はよく、「何で彼は余裕の表情で遅刻して現れるんだ」と話の種にしていた。
そんな花井は体格もよく太っていてる。相撲部に見学しに行こうと花井を誘い、難なくOKをもらった。
部員の山本を筆頭に私と宇田川と花井とで見学することになった。
相撲部の部室はなく、土俵の近くで平然と体育着に着替えはじめる山本を横目に、私たちはふざけあっていた。
山本は黙々と準備体操をしている。土俵近くに1台の車がやってきた。車がとまり、中から角刈りのこわもてのサングラスをかけた男が降りた。
夜道をひとりで歩いていたときに出会ったのなら、思わず刺されると思ってしまうほど、何かのオーラを持った男がこちらに近づいてくる。
ふざけあっていた私たちの動きは一瞬にしてとまり、羊の群れのように静かになった山本は大きい声で、その男に話しかける。
「新巻先輩、おはようございます」
「おう」
「こんなに部員が新しく入ったのか?」
「まぁ、そんなところです」
「そうか……」
おいおい、何だか勝手に話しが進んでいるぞ!
宇田川は相撲部に入部するかもしれないが、私と花井は見学だ。
山本、勝手に話しを進めるな! 心の中で叫びつつも、黙っていたら本当に入部させられそうだったので、私は新巻先輩に話しかける。
「私と花井は見学ですよ、私なんて見てのとおり相撲ができる体格ではありません。今日は見学ですから」 「そうか、俺は新巻だ。よろしく」
「あっ、こちらこそよろしくお願いします」
「おう、じゃあ山本、さっそくまわしをつけろ」
「はい」
山本は直立不動のまま兵隊のように返事をした後、まわしを取りつけはじめた。
まわしはいっさい洗わず、ただ干すだけというのをご存知だろうか。
誰がつけたか分からない代々伝わるまわしを、先代の部員から今の部員にまわってくる。
そんな意味も含めて、まわしという名前がついたのではないかと思うぐらい、まわしは代々まわってくるものなのである。
山本が取りつけたまわしも代々伝わるまわしで、それはいろんな相撲部員たちの汗が染みついている。
私からすれば汚いまわしであるが、山本にとっては光栄な代物なのだ。
まわしを取りつけた山本は準備運動をはじめる。
改めて山本を見ると、鍛えぬかれた肉体とは裏腹にとぼけた顔つきをしていて、何だか肉体と顔のギャップに笑いたくなってしまう。
新巻先輩は、私たちが通う高校の卒業生であり、働きながらわざわざ相撲部のために時間を作っては相撲部の監督をしてくれている。
そこにはまぎれもなく相撲に情熱を向ける男たちがいた。
新巻先輩もまわしを取りつけ、土俵にあがり山本と相撲の稽古を取りはじめる。
何度も山本は投げ飛ばされ、土俵に転がりながらも悔しそうな目で新巻先輩を見返し「もういっちょ」と威勢のいい声をはりあげ、新巻先輩と相撲をとっている。
その光景は2人だけの世界のようで、私たちはただ、眺めているだけしかできなかった。
山本の表情が疲れはじめ、土俵に汗がしずくのように落ちた。
相撲に情熱を向けている男たちは、なおも稽古を続ける。
私は顔面にボールが当たり簡単に軟式テニス部を退部した。宇田川は部活のあとのシャワーを楽しみにしているだけだ。花井は元々帰宅部だ。
こんな私たちの目の前で「相撲とは何か?」と、まるで問いかけるように2人の稽古を見せつけられた。
山本は何度も投げ飛ばされ、土俵の中で倒れた。新巻先輩はそんな山本に鞭を振るう。
「山本、こんなんでもうくたばっちまったのか?」
「いえ、まだまだです」
「なら、立てよ」
「はい」
山本は渾身の力をこめて立とうとするが立つことができない。
新巻先輩はやかんに入っている水を山本の顔面めがけてかけた。
山本は「ウゲッ」と変な声をあげたがどうやら水をかけられ少しは回復したようだった。
新巻先輩の視線が山本から私たちに変わり近づいてきた。
「どうだ、相撲とはこういうものだ。君たちも相撲してみるか?」
私は即答で「やりません」と答えたが、宇田川と花井は「やります」と答えた。
こうして、宇田川と花井はまわしをつけることになるのだが、2人ともまわしをつけるのは恥ずかしいみたいで、それを察知した新巻先輩は「体育着の短パンの上から、まわしをつけていいよ」と言ってくれた。
2人は着替えはじめた。山本はさっきの稽古のせいで息を切らしてバテテいる。
私は2人が着替えているのを眺めている。まわしというのは初心者ではつけることができない。
へたにつけると簡単に取れてしまう。新巻先輩と山本がそれぞれ宇田川と花井のまわしを取りつけはじめる。
宇田川が「山本、変なところ触るな」と騒いでいる。
私はその光景を見ながら、静かだった相撲部が暖まった気がして楽しい気分になる。
それがきっかけで宇田川と花井は部員になり、私は相撲部のマネージャーになった。人間の縁というのは不思議なものである。
それからというもの私のクラスで異臭騒ぎは2度と起こらなかった。