10月20日。
日本に住む多くの男性にとって、この日はカレンダーの単なる平日に過ぎないかもしれない。
しかし、ベトナム人妻を持つ私にとって、この日は絶対に忘れてはならない、いや、忘れたら家庭の平和を揺るがしかねない超重要イベントの日である。
そう、「ベトナム女性の日(Ngày Phụ nữ Việt Nam)」だ。
ベトナムでは年に2回、女性に感謝を伝える日がある(もう一つは3月の国際女性デー)。
この日は男性が女性に花を贈ったり、食事をご馳走したりと、とにかく「女性を盛大にお祝いし、感謝する日」なのだ。
普段、介護の職場でフルタイム勤務をし、娘の育児もこなしながら頑張ってくれている妻。
今日ばかりは、たっぷりと羽を伸ばしてもらわなければならない。
というわけで、10月20日。
私は専属お抱え運転手として出動した。
行き先は、妻が愛してやまない大型デパート。
助手席に乗り込む妻の横顔は、これから始まるショッピングへの期待でキラキラと輝いている。
デパートのエントランスに車を横付けし(気分は完全にVIPの送迎である)、私は妻に向けてこう言い放った。
「買い物を楽しんできなよ!」
カッコよく送り出した私。
夜勤専従として働きながら家計をやり繰りする身としては、財布の紐を大きく緩めるのにはほんの少しだけ勇気がいる。
だが、今日ばかりは特別だ。
妻の笑顔のためなら、これくらいの太っ腹なセリフの一つや二つ、言ってみせるというものである。(内心、「お手柔らかに頼むよ……」と少しだけ冷や汗をかいていたのはここだけの秘密だ)。
さて、妻をきらびやかな戦場(デパート)へ送り出した後、私はどうしたか。
一緒に店内を回って荷物持ちをする、という選択肢もあった。
しかし、女性のショッピングというのは、自分のペースで気の向くままに歩き回ってこそ真の楽しみが味わえるもの。
後ろから夫が「まだ~?」というオーラを出しながらついて歩くのは、女性の日には相応しくない。
だから私は、潔く一人で家に帰宅した。
誰もいない静かなリビング。
普段は娘の元気な声が響き渡り、賑やかな我が家だが、こんな風にぽつんと一人で過ごす時間は意外と珍しい。
娘はスヤスヤお昼寝中だ。
ソファに深く腰を掛け、コーヒーを淹れる。
夜勤の疲れを癒やすように、のんびりとした時間が流れていく。
妻は今頃、どのフロアにいるだろうか。
洋服を見ているのか、それともコスメのカウンターでワクワクしているのか。そんなことを想像しながら、YouTubeの次の動画の構成を考えたり、執筆中の小説のプロットを練ったり、私自身も、束の間の一人時間を存分に満喫させてもらった。
数時間が経過した頃。
テーブルの上に置いていたスマホが、ブルッと震えた。
画面を見ると、妻からのメッセージ。
『買い物おわった!車で迎えにきてー!』
短い文面だが、そこからは満足感と達成感がひしひしと伝わってくる。
「はいはい、ただいま向かいますよ」
私は飲みかけのコーヒーを飲み干し、再び車のキーを手に取った。
待機命令は解除され、お迎えミッションのスタートだ。
娘を連れて再びデパートに到着すると、指定された待ち合わせ場所には、両手にいくつかのショッピングバッグを提げた妻が立っていた。
車に乗り込んできた彼女の表情は、朝送った時よりもさらに晴れやかで、満面の笑みだ。
「たくさん買えた?」
「うん!すっごく楽しかった!」
その一言と、嬉しそうな顔を見られただけで、今日のミッションは大成功と言っていいだろう。
どんなものを買ったのか、助手席で楽しそうに報告してくれる妻の話を聞きながら、帰りの車内はとても温かい空気に包まれていた。
国際結婚というのは、文化の違いで驚くこともあれば、戸惑うこともある。
でも、こうやって相手の国の文化や記念日を一緒に楽しむことで、日常にちょっとしたイベント感が増えるのは、国際結婚ならではの醍醐味かもしれない。
ちなみにこの話は、まだ妻が車の免許取得前の話だ。
今は買い物に行きたくなったら妻は一人で自由に車の運転をしている。










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